ちょっと怖い話~スラックスのおじちゃん~

ちょっと怖い話

小学5年生の頃だったと思います。

当時飼っていたポメラニアンの姫と一緒に散歩に

行った時のことです。

日も沈みかけ、あたりは薄暗くなっていました。

散歩コースはいつも同じです。

家の前の路地を10メートルほど歩くと、比較的車が

よく通る道に出ます。

その車通りを真っ直ぐ歩いていくと、大きな田ん

と畑、空き地なんかが広がってきます。

あぜ道を通って田んぼを抜け、広い空き地につく

しばらく姫と遊んでいました。

当時は家もあまり建っていなかったので、空き地の

真ん中に立って周囲をぐるっと見渡せました。

 

田んぼ沿いを大回りして車通りを歩いていると、

家に通じる路地への曲がり角が見えてきました。

すると突然姫がピタッと歩くのをやめました。

いつも温厚な姫が「うーっ!!」と何かに向かっ

て威嚇しています。

「何よ?どうしたん?」

リードをグイっと引っ張るも全く動かず、ずっと

に向かってうなり声をあげています。

何度もリードを引っ張っていると、そのうちぶん

ん首を振り回しリードから頭が抜けてしまいました。

 

(あっ!)と思った瞬間、姫は逆方向へ走り去っ

しまいました。

(最悪や!どうしよう!)

おろおろと考えているうちに姫の姿が見えなくなり

ました。

 

とにかくお母さんに助けを求めようと路地に向か

て走り出しました。

路地の近くまで来た時、はっ!としてすぐに立ち

止まりました。

曲がり角にある電柱の陰に、隠れるように誰かが

立っています。

何かおかしい…

目を凝らすように何度も見てみます。

やっぱり変です…

(あの人…上半身がない!)

 

ひざから下、茶色いスラックスに黒い革靴ははっ

り見えます。

だけどどんなに目を凝らしても上半身が透けてい

足元しか見えない!

スラックスから男の人だということは分かります。

(何このおじちゃん!?)

一瞬で血の気が引いたようにその場で固まってし

った私は一歩も動けなくなってしまいました。

 

どうしよう!早くお母さんに知らせないと姫が迷子に

なってしまう!だけどあの路地を通るのも怖い!

どうしよう!どうしよう!

 

一人でパニックになっていると、後ろから突然声

かけられました。

ビクッ!として振り返ると、家の斜め前に住む大工

のおじちゃんでした。

 

「姫が鉄工所へ迷い込んどるで!とらまえて

(捕まえて)くれてるさかい。おっちゃんが連れて

きたろか?」

姫が…鉄工所に…良かった!

「迎えに行ってくる!」

「おっちゃんも行ったろか?」

「大丈夫!」

 

急いで鉄工所に行くと作業着を着たお兄ちゃんが

姫を抱っこして待っていてくれました。

「姫!!」

駆け寄って姫を抱っこするとすごくほっとしたの

覚えています。

「ありがとう!」

お兄ちゃんにお礼を言って姫をリードにつなぎ帰ろう

としたら自転車に乗った母が迎えに来ました。

おそらく大工のおじちゃんが母に知らせてくれたので

しょう。

「お母さん!」

母は鉄工所のお兄さんに何度もお礼をいうと、姫を

自転車の前かごに、私を後ろに乗せて

「ほな帰ろか!」

といいました。

 

帰る途中、あの路地の曲がり角が見えてきました。

母の背中から恐る恐る覗いてみましたが、そこに

スラックスのおじさんの姿はありませんでした。

あの時、姫と私が見たおじさんは誰だったのか…

次の日から、散歩ルートを変えたのは言うまでも

ありません。

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